2012年9月17日月曜日

三次元以前のステラ

三次元以前のステラ
  ブラックペインティングについて

トムリンソン・コート・パーク(第2ヴァージョン) 1959年


リュネビル 1994年




8月の終わりにアトリエを早く出て、前回の「三次元における絵画の止揚」の続きを書くために、フランク・ステラのレリーフ絵画を再確認しようと川村記念美術館に立ち寄った。

美術館入り口右側、林の前に巨大な「リュネビル」が立っている。いつもはバブル時代の遺物か廃墟のように見ていたこの作品が、美術館を出た後は幾分異なって見える。あまりに巨大で大げさで、笑い出したくなるのは同じだが、ドン・キホーテの突進のようにステラは何に突進したのか、その突進を無意味と笑っていいものなのか。1959年のブラック・ペインティング、「トムリンソン・コート・パーク(第2ヴァージョン)」と1994年の「リュネヴィル」の間にステラがいる。

2階奥のステラ・コレクションの展示を見る。ブラック・ペインティングからアルミの素材感をむき出しにした1990年代半ばのレリーフまで一通りの作品を見ることができる。今回は「トムリンソン・コート・パーク(第2ヴァージョン)」について書くことで三次元の前を確認したいと思う。

この作品は、今見ると、とてもホットな熱い作品に見える。ミニマル・アートという言葉のクールな響きとは異質だ。熱気はまるで巨大なエネルギーをどうにかコントロールして止まっている、蒸気機関車のようだ。そういえばこの作品が制作された1959年にはまだ現役であったはずの旧世代を象徴する内燃機関。エナメルの黒が石炭の黒と重なって感じられる。

黒いエナメル一色の画面は刷毛の幅によって規定される、同じ幅のストライプが繰り返され、ストライプの区切りには地のロウ・キャンヴァスが細く白っぽく見えるが、ロウ・キャンバスへのエナメルの浸透により、塗られたストライプのむらのある光沢の塗料の厚みに対する、無光沢で塗料の厚みのない、少し明るい隙間として見え、画面には冷たい印象はない。かえって今回は、ポロック晩年のブラック・ペインティングとの同質性を強く感じさせられた。ロウ・キャンバスと黒いエナメルはポロック晩年と同じだ。抽象表現主義との深い繋がりを感じる。

作品の外形がそのまま繰り返されているのではない。一見、そう見えるのだが、同じ幅のストライプで描かれるので、キャンバスのプロポーションとはズレ続けてキャンバス中央部に細長い形が出現することになる。目で追うたびに、キャンバス外形と中央部の細長い長方形との、継続的変化をそれとなく感じるので作品が息づくのだと思われる。

さらには白っぽく細い塗り残しが、ストライプとストライプの位置を、平坦なのだが平坦なままには感じさせない、視覚的イリュージョンにして息づかせているようだ。

この作品は頭で作られたというより、ロウ・キャンヴァスとエナメルという素材、刷毛で塗るという制作行為の継続が作り出す視覚的物体とでも言うべきものとして作られているように感じられる。
                                   (美術家)